ラヴァーズ
この手帳には、すでに何ヵ月分も書かれていた。そのなかには、こわい、や助けてという言葉がたくさん見られる。ない日なんて、ない。いつだって、私は不安で一杯なのだと。

手帳は少し大きめで、そしてルーズリーフ式だ。何枚も何枚も、私はページをめくる。

不安ばかり書き綴る日もあれば、逆にいろんな何気ないことを書く日もある。

今日の私は、私が書く内容は、冬威さんや華月さんのことで埋め尽くされるはずだ。

最初辺りにある、私の、出会った人リスト。ポラロイド写真に映る私と冬威さんと華月さん。新しく加わった。だからこそ、

私は明日を迎えたくない。

ちらりと楽しげに話す冬威さんと華月さんをみた。

彼らは、とても好きだ。

私の病室に来る人は、医者だったり看護師さんだったり、大人ばかり。

私には友達が少なかったのかもしれないけれど、訪ねてくれる子供は、妹だという夏夢ちゃんしかいなかった。

だから寂しかったし、それに、大人たちや妹は、一日に、一回しか会いに来てくれない。

でも彼らは、こんな状態の私を見て、呆れて帰ったと思ったのに、また、会いに来てくれた。私が覚えていられるうちに、たくさん話をしに来てくれた。

だから、私は明日を迎えたくない。

忘れてはいけない、そう、思える人だから。

「あえてよかった」

二人にあえてよかった、そう呟いたら、冬威さんが、私に手を伸ばして、

泣きそうな顔をして笑いながら、

「俺も、雪夢にあえてよかった」

私の頭を優しく撫でながら、そういった。

「…私も、よ」

華月さんも、微笑んで私の手を握ってくれた。

手帳に一粒涙が落ちて、それから決壊したように深い緑の手帳を黒く染めていった。

これが、彼らに出会ったことの、証となるように、祈らずにはいられない。







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