ありふれた恋を。

1度帰宅して着替えを済ませてから弘人さんのマンションへ向かう。

私が今になって過去を気にし始めていることに、弘人さんは気付いているのかもしれない。


前の彼女さんを無理に忘れなくても良いなんて言ったことに自分で縛られている。

弘人さんを知れば知る程、一緒に居れば居る程、私の中で前の彼女さんの存在は大きくなっていた。

その大きさが、いつの間にか無視できないくらいになっていたのかもしれない。



『有佐?』


バス停までの道をひとり歩いている私を呼んだのは、自転車を押して歩く伊吹くんだった。

部活帰りだろうか、涼しくなり始めたのもお構いなしに半袖のシャツを着ている。



『今からどっか行くの?』

「うん、ちょっと。」


弘人さんとのことを知っているからと言って、素直に答えることはできない。

私の曖昧な答えに全てを察したのか、伊吹くんは何も言わなかった。


一緒に帰らなくなってからも、伊吹くんはいつだってこんな風にそっと見守ってくれていた。



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