ありふれた恋を。
『なんだよあいつ、この前まで俺のこと好きとか言っといてさ。』
彩ちゃんが本当に好きなのは瀬川くんだったということは弘人さんに話してある。
さっきの彩ちゃんの言葉を弘人さんはどう受け止めただろう。
『元気か?』
唐突にそんなことを聞かれる。
確かに部屋にはあまり行っていないけど、昨日だって学校で会っているのに。
「元気ですよ。」
『その割には食が進んでないようだけど。』
彩ちゃんがつまんだ卵焼き1つ分だけ空いたお弁当。
何の返事もできず、ただお弁当に視線を落とす。
「私は、思ってないですから。」
『うん?』
「先生を好きにならなくて良かったなんて。」
自分でも聞こえないくらいの小さな声を、弘人さんが拾ってくれたかは分からない。
でも上から降ってきた『分かってるよ』という声はとても優しく、私が信じられる弘人さんの声だった。
今日は金曜日だから、弘人さんの部屋へ行こう。
他の生徒に呼ばれて去って行く足音を聞きながらそんなことを思った。