ラフ
「へぇ、どんな夢?」

泉は興味津々といった風に聞いてきた。

「たいした夢やないで?昔、お母さんと話してたことを、思い出したというか」

そのとき、ふっと母の最期の言葉が気になった。
父は・・・・やから。何だろう、大事なことだった気がする。けど、どうしても思い出せない。

「どんな話?」

泉に聞かれて、うーん、と少し悩んだ。
でも、隠すことでもないか、と思って、夢の話をした。

「私ね、生まれたときから、母子家庭やったん」

「え・・・?」

「お父さんがおらんくってさ。未婚の母っていうやつ。お母さんは、女でひとつで私を育ててくれた」

泉は黙って聞いていた。

「小さい頃は、よく、お母さんに、お父さんのことを聞いてた。どんな人やったーとか、何をしてるのーとか。でも、その話をするたんびに、お母さんは悲しそうな顔をしてて」

そう、いつもは聞いても、はぐらかされるだけだった。
でも、夢で見たのと同じ、あの時は、母が、父のことをあの一瞬だけ、教えてくれた。

「そのとき、お父さんのことを何か言ったと思うんやけど・・・なんて言うたんか、今でも思い出せんのよねー」

あはは、と笑う。泉は複雑そうな顔をしている。

「・・・お母さんは、今は?」

泉に聞かれて首を横に振る。

「10年前に他界した。私がちょうど、15歳の誕生日を迎えた、翌日やった。すっごい苦労してて、大変やったと思う。体調を崩してたけど、家に居たいっていうから、お母さんの願いどおり、入院はせずに、家におった。けど、お母さん、死んじゃった」

泉が申し訳なさそうな顔をする。

「そんな、気にしんといてよ!もう、10年もたってるんやし。ね?」

でも、と泉が言うが、それ以上は言わないよう、制止した。

「お母さんも私も、幸せやった。お母さんは病気で死んだけど、笑って最後を迎えた。やから、幸せやったって信じてる。やから、泉君がそんな顔をせんといて。な?」

そう言うと、泉はただ、無言で頷いた。
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