だからキスして。
嬉しさで胸が爆発しそう。

泣きたい。
嬉しくて涙が出そう。

だけど、あたしはハッとした。

「せ、先生。ダメよ、これからお客さんが…」

「『28歳黒谷です。ホントにキスするんですかー?』」

先生は少し声色を変えて言った。

確かに!
電話の時、黒谷と名乗る男にそう言われたわ!

「先生…だったの…」

「だって本名言ったら電話切られちゃうかと思って」

「嘘つき!あたしを騙したのね!誰が'黒谷'ですって!?」

「お前が逃げるからだよ」

先生はオフィスの中へと入り、ドアを閉めた。

「おお…ホントに真っ白な部屋だなー」

「…どうしてあたしだってわかったの?」

「オレの友達が、お前に依頼してキスしたって話しで…名前とか外見とか聞いて'もしかしたら'って思ってさ」

「だからってこんなトコに来てどうするのよ?先生には必要ないものでしょう?」

会えて嬉しいのに
忘れなきゃって、自分の中でブレーキをかけていた。

少しの希望も見いだしてはダメ。

好きでいてもいい可能性なんて探しちゃダメ。

あたしが勝手に消えたから、責任感の強い先生は捜してくれてたんだよね?

先生はあたしの顔をジッと見ていた。
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