HOPE
「違う……ただ……」
 言葉に詰まってしまった。
 なぜ僕はこんな事をしているのか。
 その事を考えていると、なぜか沙耶子の事を思い浮かべてしまった。
「ただ……何かに依存したかったんだと思う。前に、大事な物を失くしたから」
「その大事な物は、煙草なんかを代わりに出来る様なちっぽけな物だったのか?」
「そんな事はない。本当に……大事な物だったんだ」
「なら」
 彼女は僕の顔をジッと見る。
「何だよ」
「煙草以外に依存する物を見つければ良いんだ。それか、何かに依存しなくても大丈夫な様になる事だ」
「僕は……そんなに弱い人間なのか?」
「少なくとも、私から見たらな」
 何も言葉が見つからなかった。
 彼女の言う事全てが正し過ぎて。
「見届けたいんだ。君がどう変わって行くのかを」
 校舎にチャイムが鳴り響く。
 すると、彼女は僕に「じゃあ、また後で」とだけ言い残して屋上から出て行った。
 また、後で……。
 こんなまともな会話をしたのは久しぶりだった。
 携帯を開き、電話帳を見る。
 そこには、新しいアドレスと電話番号が登録されていた。
「天道……美雨……」


 ホームルームが終わった時間を見計らって、教室へ戻った。
帰り支度をしていると、担任の琴峰に準備室へ連れて行かれた。
 まったく、琴峰の様な新任の教師は、無駄にやる気があって困る。
「なんですか? そろそろ帰ろうと思ってたんですけど」
 皮肉たっぷりに言ってやった。
 すると、琴峰はさっそく話を切り出す。
「平野君。将来の事は考えてるの?」
「まだ、特には……」
 そんなあやふやな返答しか出来なかった。
 当然だ。
 日々を何も考えずに過ごしている僕に、そんな事を考えていられる余裕なんて、ないのだから。
 担任は見計らっていた様に、ある書類を僕に突き付けた。
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