HOPE
 丁度、バスが来る。
 平日の昼前という事もあり、バスの中には僕達しかいない。
「なあ、天道」
「何だ?」
「お前のおかげでここまで来れた。本当にありがとう」
 その言葉に、天道は赤面する。
「ま、まだ早いぞ。とりあえず、合否を見ないとな」


 合否の結果が並べられている掲示板は、バス停のすぐそこにある大学の門前にある。
 僕と同い年くらいの男女が、そこら中に何人もいる。
 段々、緊張して来た。
 少しずつ息使いが荒くなる。
 天道は穏やかな口調で「大丈夫だ」と言って、ぽんぽんと背中を押してくれた。
「きっと受かる。あれだけ勉強したんだから」
「……そうだな」
 僕は込み上げる緊張を抑えながら、合否の結果が貼り付けられている掲示板を見た。
 手に持っている受験票に記載されている番号と、掲示板を何度も見比べた。
「あった」
「え?」
「あったんだよ! やったよ!」
 僕の緊張は一気に解れた。
 そして、彼女の緊張も解れた様に、表情が緩む。
「やったな!」
「ああ。お前のおかげだ! 天道!」
「そんな事はない。私はただ、お前の背中を押してやっただけだ。これで、宮久保さんに胸を張って、会う事が出来るな」
「そうだな」
 沙耶子が眠り始めてから、ただ、何の意味もなく毎日を過ごしている。
 今までそう思っていた。
 しかし、天道と出会ってからの、一分一秒には大きな意味が込められていた。
 それは、希望も持てず大きな過ちを犯していた僕の変化。
 そして、僕が変われた理由こそが天道だったのだ。
「ようやく決心が出来た」
「何の?」
「明日、沙耶子のお見舞いに行ってみようと思う」
 天道は少しだけ悲しげな表情を浮かべ、そして笑い掛けた。
「そうか。きっと……宮久保さん……喜んでくれるぞ」
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