モラトリアムを抱きしめて
リビングと玄関を繋ぐ短い廊下の隅に少女はいた。

冷たいフローリングに膝を立て、寝ている子猫のようにじっと身体を丸くしている。

私に気付いていないのか全く動こうとしない。

名前も知らない少女になんと声をかけようかと少し戸惑い、肩に軽く触れようとすると、少女の身体は小刻みに震えより小さくなっていった。

ちょん、と私の指先が触れると少女はビクッと大袈裟なくらいに反応し、顔を上げた。

渇いた瞳だった。

潤いを失った瞳は赤く、弱々しい瞼の奥で強い力を感じる。

下唇を噛んだかと思えば、不安そうに眉を下げた。

「えっと、あの……これ、あなたが?」

とっさに手に持っていた冷たいハンドタオルを差し出すと、少女の表情が少しだけ緩んだ気がした。


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