モラトリアムを抱きしめて
「親にも警察にも連絡してほしくないのよね?」

自分自身にも問うように話すと、少女は小さく頷き、そのまま俯いた。

「もしかして家出?」

どんな事情かはわからないけれど、それくらいしか私には思いつかなかった。

連絡してほしくないのと、この傷とは別の理由だろうか。

少女はまた、黙ってしまった。

沈黙が続く。ココアで甘たるくなった口が渇き、さっぱりとしたものが欲しくなる。

空気がいっそう乾燥しているように感じた。

すっと立ち上がり、冷蔵庫に常備しているミネラルウォーターを一気に喉に流し込むと、頭の上までスゥーとなる感覚。

ふぅーっと息を大袈裟に吐き、私は決意するのだった。


「よしっ、お風呂入ろう」


自分でも間抜けだと思う提案だった。


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