モラトリアムを抱きしめて
少女の返事を聞かず、すぐに湯を溜める為にお風呂場へ行った。


「すぐ入れるからね、傷口は擦ったらダメよ?あ、そうだ!お風呂から上がったら消毒した方がいいわよね……消毒液あったかしら」

バタバタと動き回りながらひとりで喋る私を、少女は黙って目で追い、時々微笑んでいた。

「やっぱりないわ」

薬箱には簡単な風邪薬、それに安くて沢山入っている絆創膏、あとは胃薬に体温計。

殆ど使う事のないこの箱には、消毒液も少女の傷口にあう絆創膏も入っていなかった。

そろそろお湯も溜まっただろうか。

「お風呂入っていてくれる?その間に消毒液買ってくるね」

そう言うと少女はコクリと頷いた。


< 23 / 109 >

この作品をシェア

pagetop