モラトリアムを抱きしめて
『それで、病院どうだったの?』

朝早くから出かけた事もあり、思っていたよりも時間が経っていなかったらしい。

「え、ああ。 いつもと一緒」

私は少し立ち止まり、駅へは向わずに公園へ入る事にした。駅の慌ただしさは、夫のゆったりとした声には合わない。

『そっ、か』

夫の優しさはその一言に滲み出ていた。

夫は本気で私を心配してくれているのだ。

いくつかのベンチと汽車の形をした遊具がひとつあるだけの閑散とした公園。

夫の重苦しく、けれどそれを感じさせないよう努める声だけが耳に響く。

何だかそれが嬉しくて、思わずニヤケてしまう。

天気はよくても、冬の風にさらされた公園のベンチはひんやりと、冷たかった。

そこにそっと腰掛ける。


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