モラトリアムを抱きしめて
少女だとわかったのは、乱れた長い黒髪と、ほっそりとした手足。

擦り切れそうな赤いカーディガンと、季節はずれの膝までしかないジーンズ。

靴を履いていない足元は、無数のすり傷と土だけを纏っている。

ギュッと握られた右の拳の隙間から覗くのは、くしゃくしゃになった千円札。

中学生にしては少し小さい。小学生だろうか。


――そうだ!夢中になって忘れていた。

早く警察……いや、救急車?

とにかく携帯を取りにさっきのベンチに――

立ち上がろうとすると、ふわっと何かが腕に絡まった。

< 8 / 109 >

この作品をシェア

pagetop