海までの距離



『そう言いなさんな。こっちだってただ働きさせるつもりねぇよ』

「でも…」


海影さんが、口ごもる私を制する。


『いいっての。真耶のことはライブ後にディレイの関係者に紹介するな』

「…あれ?ライブ前じゃないんですか?」

『ライブ前はバタバタするからさ、ライブ後に話したらいい』


海影さんはそう言うけど、素性の分からぬ女子高生の書くライブレポートなど、受け取ってくれるのかなあ。
ライブはナマモノ。私のライブレポートが気に入られなかったらどうなるんだろう。
ディレイ側が代替を用意してくれる?
もしかして、それを見越してもう一人本当のライターを用意してくれる?
…いや、そんなこと考えるのはおかしい。
受けた以上は、誰もが納得してくれる作品にしないと!


「音楽業界って、フランクな世界ですねぇ」

『そうだなー。全体的に適当なもんだよ、うん』


私には海影さんがついている。
私、やれる。
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