海までの距離


「海が真っ暗だな。明るいうちに来とけば良かった。今日は天気が良かったから、昼間は佐渡が綺麗に見えただろうな」


視線を斜め前に移した海影さんに、私はやっと海影さんがこのルートを選んで走っている意図に気付いた。


「遠回りしたのは、海が見たかったからですか?」


私の質問に、「ご名答」と海影さん。


「俺のステージネーム…“海影”の“海”は、日本海のことを思ってつけた。『井の中の蛙大海を知らず』って言うじゃん?俺は日本海だけを見て一生を終えたくなかった。太平洋の見える東京も、もっと南の方も北の方も見てみたかったんだよね。LOTUSの頃から、そう思ってた」


海影さんの名前に、そんな壮大な由来があったなんて…。
海影さんのファンの子達は、そういうことまで知っているのかな。


「…さて、そろそろ街に戻りますかね。あんまり受験生連れ回すのもどうかと思うしな」


海影さんは目前に見えた交差点で、ウインカーを出した。
海を背に、雑木林を抜ける。街のネオンが視界に戻ってくる。
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