海までの距離
物悲しくて、いやに眩しい。


「新潟には、明後日までいるんですか?」

「いいや、明日ライブが終わったらすぐ東京戻るよ」


この間のような打ち上げを密かに期待していた私には、がっかりな言葉だった。
もうじき家に着いてしまう。
海影さんとのドライブが終わってしまう。
明日は海影さんに会えない。海影さんを「観る」ことしかできない。


「明日のライブ、楽しみにしていますね」

「ありがと。頑張るよ」


海影さんの言葉は、どこか優しい。
薄幸そうで冷たい色気を持つ見た目に反して、ベースを手放した時の海影さんはなんだか温かい。
海影さんがベースを奏でる姿はとても秀麗だし、写真で見ても「綺麗な人」という印象は変わらない。
でも、それだけが海影さんじゃないみたいだ。


「この間降ろしたとこと同じ場所でいいの?」

「はい、お願いします」


国道が見えて、海影さんは私の家の方まで真っすぐ走る。
世間は丁度帰宅時間、道路は車で溢れている。
色のバリエーションが乏しい車のライトが、全部同じような速さで走っていく。
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