海までの距離
そんな私の予想に反し、2人は「帰ろっか」「そうだね」なんて話を始めている。
楽屋に立ち寄るでもなく、出待ちをするでもない。
それが何か特別な事情を示唆しているかのように。


「真耶ちゃん、ご飯食べてく?」

「ん、帰ります。まだ課題終わってないし」


有磨さんの誘いを、初めて断った。
有磨さんとレナさんには、昨日のことを話せずにいる。
もし自分が2人の立場だったら、自分達より後から海影と知り合った人間が海影と親しくしていたら、それがどんなに仲のいい人間でも、いい気はしないから。
有磨さんもレナさんも、そんな器の小さい人じゃないとは思っているけど。
私は踵を返し、いつもライブの時に自転車を停めているコンビニへと向かう。
今日こそは、自転車で帰らなくちゃ。
もうじき海影さんが新潟からいなくなる。
次に海影さんに会えるのはいつ?
考えると、泣きたくなる。
だけど今は、そんなことを考えている余裕なんてない。
今自分が専念すべきこと、それは自分が一番分かっている。
海影さんに恥じるような生き方をしたくない。
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