海までの距離
あ、海影さんがお酒飲めないのは知ってるもん。


「この4人の中のどの人?真耶ちゃんが好きな人って」


隣で携帯をいじっていた咲が、突然私の机に身を乗り出してきた。
直球すぎる咲の言葉に焦る私。


「好きってわけじゃ…」


咄嗟の否定に、咲が不思議そうな顔をする。


「あれ、ファンじゃないの?」


なんだ、そういう意味か。
そう言えば咲には海影さんのことばっかり話してたっけ。
海影さんの写真を見せたことは無かったけど。


「あ、うん…この人が好きな人」


海影さんの写真を指差す。
「好き」とか言うの、恥ずかしいな。なんでだろう。


「わー、綺麗な顔!女の子みたい。あっ、でも隣の2人も可愛いね。この人はビジュアル系ぽくないな。細身で筋肉質だあ」


ビジュアル系バンドに疎い咲は、自分の馴染みのない世界を目の当たりにしてきゃっきゃとはしゃぐ。
つくづく思うけど、今雑誌に載っているこの人と一介の女子高生である私がメールしているというだけでも、ちょっと変な感じ。
ほんの少し前までは“有り得ない”事象。
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