飛べない黒猫
外は快晴。
明るい日差しが東向きの窓から部屋いっぱいに差し込んでいる。

昨晩、カーテンを閉め忘れたらしい。
差し込む日差しの眩しさで目が覚めてしまった。


壁の時計は9時を回っている。

明け方まで仕事をしていた為、身体はだるく頭も重い。
ここ数日は部屋にこもりっきりだった。

おかげで、急ぎの仕事がやっと片付き、今日はのんびりと寝ているつもりでいたのだ。



越してきてから1ヶ月が経っていた。
特に気を使う事もなく、マイペースな日々を送っている。

朝起きると、たいがい青田と洋子は仕事に出た後で家の中は静かだった。
真央は部屋で通信教育の教材で勉強しているか、テラスに設けられたサンルームでステンドグラスの制作に没頭していた。


学校には行ってなかったが、青田は教育熱心で、真央が興味を持った事柄を上手く取り上げて身につけさせていた。

和野の得意分野である書道やピアノや裁縫は勿論のこと、英検、漢字検定の資格も取得している。



蓮は大きく伸びをして、居間に向かった。

ダイニングテーブルにスケッチブックを広げた真央が顔を上げた。



「おっ、ここに居たんだ。
おはよ、真央ちゃん。」


傍らにはクロオ、相変わらず黒ずくめコンビ。
クロオはテーブルに上がって、色鉛筆を散乱させている。


「こら、お前は床だ。
邪魔しちゃだめだろう。」


クロオを片手で持ち上げテーブルから降ろす。

この頃は、威嚇することも嫌がる事もなく、されるがまま。
…だからと言って、なついてくる様子は無いのだが。

いつも真央のそばにベッタリだ。



クロオの首には赤い首輪、色鉛筆のペンケースにはお揃いの猫型ストラップ。
そして、真央の胸にはムーンストーンのペンダント。



「おっ、サンドイッチだ…美味そうだね。
真央ちゃんのお昼ごはん?」

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