飛べない黒猫
数日が過ぎた頃、蓮は取り寄せたコンクールの申込書を真央に手渡した。

現在製作中の作品はまだ2〜3ヶ月はかかりそうなので、昨年の秋に出来上がっていたステンドグラスのパネルを出展する事にした。

A3より少し小さいサイズ。


夜桜が散って花びらが水面を揺らし、そこに、おびただしい蝶が舞っている画。

【夜の蝶】と題したその作品は、青田が自ら東京にある美術展事務局に持ち込んだ。
郵送する予定だったのだが、ガラスが破損したら大変だからと青田が自ら言い出したのだった。

青田は真央の出展を、心から喜んでいたのだ。


青田が無事に提出を済ませて東京から戻った晩、盛り上がった気持ちに水を差すように、真央は、あまり嬉しくない報告も聞かなければならなかった。


「明日、岡田家が子供達と一緒に、家に来る事になってね。
あ…結婚の祝いにって。
夕方に来て、30分くらいで失礼すると言ってたな。
真央は、もう、ずっと会ってなかったね。
挨拶するだけでいいから、顔を出せそうかい?」


青田の言葉に、真央は不安げに視線を落とすが、ゆっくりうなずいた。


「無理はしなくていいからね。
下に降りて来れるようならでいいんだよ。」


明らかに真央の顔色が変わった。


「真央ちゃんのいとこなんですか?」


蓮が青田に聞く。


「あぁ。
亡くなった真央の母親の妹夫婦でね。
大学生の男の子と、真央と同じ年の高校生の女の子なんです。」


「へぇ、同じ年ですか。」


「岡田はウチの会社で役員をしているので、普段行き来はあるんだが、子供達は滅多に会うことが無くてね…。
蓮くんも出来たら都合つけてもらえると嬉しいなぁ。
彼らに君を紹介したいと思っていたんですよ。」


「はい、明日なら大丈夫です。」


青田はホッとした表情になる。

岡田は、蓮に対して警戒している。
だから、ここで会って偏見を正せば、何かとうるさい事を言われずに済むだろうし、誤解も解けるであろう。

気楽にも、そう考えていたのだった。

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