頭痛
「私が、秋史ですが」
 相手から名前を確認されたので、秋史はやむなく答えた。

「やっぱり秋(アキ)やったか。声でそうやないかと思ったんやけど」

「どちら様で?」

「信一郎。相馬信一郎」
 どこかで聞いた名前である。

「えーと、相馬さん」

「信ちゃん言うてくれとった、あの信一郎やで」

「しっ、信ちゃんかいな」
 秋史は思い出した。仲の良い幼馴染みの名前ではないか。そんなことまで忘れてしまうようになったのかと、秋史は溜め息を着いた。

「アキ、元気しとったかいな」

「ああ、元気でやってるよ」

「あの事故からもう十年になるが、実家へは帰って来んのか」

「帰らないよ。全部吹っ飛んだんやから、こっちでやっていくよ」

「あんな事があったんやから、その方がいいかもな」

「信ちゃんはどうしてた。よくこの電話番号が分かったね」

「こっちは、家業の酒屋を継いで、普通に暮らしとるよ。番号の方は登記簿に載っとったよ」

「登記簿? 何でそんなもん見たんだ」

「地元の不動産屋が調べたんだよ。俺が土地を探してたから。それでアキの名前が出て来たもんだから、不動産屋に任せずに、俺から連絡してみることにした」

「そうか、それで?」

「家業の酒屋だけじゃ、この先、食っていけないと思ってな、スーパーをやりたいんだ」

「スーパーか」
 株の運用を始めてからというもの、秋史には物の大体の価値が即座に見えるようになっていた。信一郎は言わないが、もくろみ通り、田舎でも、地域一帯に店の少ない自分の故郷なら、スーパーに需要が集まるだろうという事ぐらい、手に取るように解った。

「よく考えたのか」

「ああ、父親の代から、俺は言ってたんや」

「要するに、実家の土地が欲しいんだな」

「そうなんだ。売ってくれないか」
< 8 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop