かけら(「坂道」 短編集)
かけら2 おもい
裕美はテレビもラジオもない四畳半の古びたアパートの一室で、隣で寝息を立てる母を起こさないように上半身を起こした。



隣の窓の外に見えるまん丸なお月様は、東京で頑張る過去の恋人も見ているであろうか。



あなたの中では、私はどんな存在でしょうか。


あなたの中では、私は思い出になっているでしょうか



あなたの中には、私は残っているのでしょうか。



裕美はぐっとした唇をかみ締めたまま、満月を見つめ続けた。


そして、ちいさくつぶやいた。



「私の中には、まだあなたへの思いでいっぱいです。」



裕美は声を出さずに、泣いた。


両手で顔を覆って泣いた。




そんな娘を、母は涙を流しながら見ていた。
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