かけら(「坂道」 短編集)
かけら3 くのう
土門は、母校の室内練習場で黙々とダンベルを上げていた。



吐く息は真っ白である。



やがて震える筋肉を解放するようにダンベルを床に置くと、ベンチプレスの台に腰を下ろして大きく息を吐いた。



土門はうらやましかった。


大学の整った環境で、野球に打ち込める親友が。


働きながら、クラブチームで年配者に混じってプレーをするのは、若い土門にとって正直退屈なものであった。



土門が薄暗い外を汚れた窓越しに見ると、白い雪が舞い降りていた。


この雪を見るといつも思い出す。



あの少女は、元気だろうか。



冬の練習をするたびに思い出す記憶。


温かくて、果てしなく冷たいあの記憶。



それを振り払うように、土門はダンベルを握る。




室内練習場の張りつめた空気に、ただうつろな金属音だけが響いていた。
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