かけら(「坂道」 短編集)
かけら4 ねつい
尾上は大学の研究室で、ひとり医学書を開いていた。




もう夏休みに入っており、校舎にはだれもいない。







しかし尾上は、毎日毎日、薬品臭いこの研究室にやってきた。




ほんのわずかな時間でも、人の命を救える学問を学びたかった。










丁度一年まえも、こんな暑い日であった。










あれからもう、一年がたつ。



あの笑顔が、無残にも失われたあの日から。



尾上はぶ厚い医学書を閉じると、窓の外を眺めた。


澄み切った青空には、雲ひとつ浮かんでいない。




その時。




遠く向こうに何かが光った。


そしてその影は見る見る大きくなり、目の前に広がる町の中心部に激突、炸裂した。



そのあまりの衝撃に、研究室の窓がぶるぶると震える。



尾上も思わず、椅子から吹き飛ばされた。
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