【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
「別にあんたにここに居ろとか、頼んだ覚えないけど」


(……そこ突っ込むところじゃないし。ちょっと衝動的になって、口走っちゃっただけなんだよッ)


「うぐッ……。じゃ、じゃあボールも取り返した事だし、俺はかえ」
「嘘、ここにいろよ」


方向転換した瞬間、俺の腕を彼が急に引き止めた。思わず君の方によろけそうになったが、なんとか踏ん張った俺の足。
突然のことで訳が分からない。ただ心臓だけが世話しなく、少し早いテンポで音を刻む。


そして、必然的に彼と向き合う状態になっていたらしい。だいぶ至近距離で見つめてくる藍色のソレは、何を考えているのか全く読み取れない。


ヤバイッ……目、反らせねぇ。
澄んだ夜の、空みたいな色。


「……あんたのその髪、目に留まったんだ」


俺の髪を一房掴み、光に透かす。まるで壊れ物に触れるかような優しい手つきに、俺の気持ちも落ちつかない。


「闇を跳ね除ける、そんな色。暗闇にも染まらない、あんたの髪に気が付いたら目を奪われてた」


一瞬浮かんだ切なげな表情。


(なんだソレ。そん顔で見つめてくるなんて、……反則)


混乱した俺の頭は違和感に気付くのに遅れた。
今、目を奪われたって、それって……




「まっ、当の本人は全く気付く素振りもなかったけど」


で、ですよねー。
全く気付きませんでした……。


――俺の髪は大分色素が薄いらしく、それはほぼ金髪に近い。よく律が「依乎カラーに染めてみたい」だなんて、言っていた事を思い出す。




「お前もそのー……俺の事、見てたんだな」



それってつまり、彼にも俺の存在が分かっていたと言うことで。怒りとは別の意味で火照った頬を思わず押さえる。


黙り込む俺を見て、彼は不意に意地悪な笑みを浮かべる。


「あぁ、違う違う。俺が見てたのはあんたの"か・み・の・け"ねっ」


(……コイツ、絶対性格悪い)


「……ああ、髪ね、髪。ほら綺麗だろ、天然物の地毛なんだ。
俺もほらっ、お前の髪が……珍しかったから、ちょっと気になってただけで……別になんとも」


俺は今、何言っているんだろう。


黙ってれば良かった。
君に口で勝てないことなんて会った時から分かっていたのに。

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