【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
「それだけじゃないだろ…?」


顎に指をかけられて、至近距離でまた目が合う。やけに近いその顔は、やはり少し楽しそうで。細められた切れ長の目は、そりゃもう……色っぽいから。


「あんたの前に現れてやった、俺はどうなんだよ。ほら、黙ってないで言ってみろ」


俺は顔を赤く染めて、目の前のコイツを睨むしかないんだ。




ーー流されてしまいそうだ。感情までも君に。


思考までも支配する、甘い声は悪魔の囁き。そよ風に靡くその髪は、思わず手を伸ばしたくなる程滑らかで。


男で長髪が似合うとか思ったヤツは初めてだ。なんで似合うんだよ。
そして俺より背が高いとか、神様はコイツに色々と与えすぎじゃないだろうか……。



(大丈夫。気のせい、だ)


言い聞かせるように何度も何度も心の中で唱えながら。


(……惹かれてるとか、そんな訳がない)


すぐ夢から覚めるから。




***


律にメールを送った。


『具合悪くなったからごめん。俺、先帰るね。マジわりぃ』


あぁ…なんか罪悪感。そう思いながらも送信ボタンを押す。俺は何をやってるんだか。


そんな俺を他所に、君は近くのベンチに座り足を組んでいた。
はいはい美脚なんですね、分かります。俺も君の隣に腰をかける。

……ちょっと距離を置いて。


「滝沢依乎ってんだ。お前は」


名乗ってないことに今更気付いちゃったりして、当然のように名を名乗った。普通最初にやるべきだよな……まぁいい。


「イオ…ふーん。女みたいな名前」


いきなり禁句。


「あんま好きじゃねぇーんだよ。依乎って名前」

「でもイオなんて名前、普通の奴だったら名前負けするぜ。

……あんたに合ってる」


(この人は、こう言うことを恥ずかし気もなくサラリとッ……)


そう思いながらも内心嬉しくなってしまった俺も、もう手遅れだ。

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