【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
「なぁ、お前の名前は」

すると君は、その言葉にピクリと身体を動かすと、今度は少し不機嫌な顔で俺を睨み付けてきた。
俺は今、何か可笑しなことを聞いたんでしょうか。てか何で不機嫌になんの?


「何が」

「だから、名前教えろって」

「なんで」

「はぁ?常識的に考えて、俺は名乗った。次はお前が名乗る番だろ」


この後俺は「コイツには常識が通用しなかったじゃんっ」と改めて思い知らされる羽目になる。




「ママに言われなかったのか?
知らない人には名前教えたら駄目よって」

「え」


ば、馬鹿にしてんのかコイツ……!!女口調が上手かったのは、この際おいておくとして。

「なっなんだよソレ!!それとこれとは話が……」

「あんたは俺の事なんて知らなくていい。知る必要がないッッ」


脅すような低音に肩が震えた。冷たさを含む視線が、痛いくらいに突き刺さる。


なっなんだよ……
やっぱ分からなすぎるよ、お前。


「お前の事知ったらダメなのかよ……」


思わずぽつりと呟いていた。


「別に俺は、あんたの名前を聞き出したりなんてそんなことはしな……」

「だから依乎だつーの!!俺、ちゃんと名前あるしっ」

ふんっと横を向くと、君はふっと吹き出した。


「イオって名前嫌じゃなかったの?」


気が付いた時には既に遅くて……。


「お、お前があんたあんたってうるさいからっ」


目線をキョロキョロさせて誤魔化す。君はクスクス笑うと、まるでどこかの執事のようにかしこまってみせる。


「少し我が儘なぼっちゃんですね」

「ばっ、馬鹿にしてるだろッッ」

「してないけど」

「にやにやすんなッッ」

「……かしこまりました」



その後も君は、名前を教えてはくれなかった。スルリと俺の質問をかわしていくから、気付いた時には君のペースに流されてる。……掴めない、糸みたいな人。


途中から俺も「名前なんてどうでもいーや」なんて、そう思っちゃったりしてきた訳で。

君と話すこの時間が、意外と居心地が良かったから。



君があんなこと、しなければ。


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