【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
凄く変わった奴。けど、いつの間にか惹かれてた。


藍色の瞳に見つめられると、心の中を見透かされているんじゃないかとドキドキして。
耳通りのいい、君の声に名前を呼ばれると、自分の名前が何か特別な意味を持って聞こえた。



ーー歩き出した足。振り返えらない。





多分君の事だ。
振り返ってももういないだろうから。


……悔しいじゃん、そんなの。




風が吹いた。
芝生がさらさらと波打つように揺れる。

ーーすると音もなく腕を引かれた。





「……りゅう。かわせりゅう。俺の名前」


耳にかかる息が少しくすぐったい。
俺の掌にさんずいを書いてみせる。その"流"なのか。


流れるようなその髪も。誰にも染まらない、流されないその澄んだ藍色の瞳も。言われてみれば納得かもしれない。


そう言う俺は、始終お前のペースに流されっぱなしだったよな。



あまりにぴったりすぎる名前に思わず吹いてしまった。目尻に浮かぶ涙をそっと拭って。



「もう……先に帰ったかと思った」

「それ言われるの2回目なんだけど……。最後まで見ててやるよ。誰かさんが、また女と間違われて連れてかれないように」


「余計なお世話だ」と思いつつ、前科があるから何も言えない。
さっき俺が女扱いした事を、実は根に持っているのだろうか。







「優しいじゃん。今が一番」

「優しいさ、最初から」

「嘘だ」


「……イオ、気をつけて帰れよ」


……やっぱ最後が一番優しいじゃん。



「さんきゅっ、流」


後ろから笑い声がくすくす聞こえる。俺もふっと息がこぼれる。次第に小さくなる笑い声。


多分最後まで、俺の姿が見えなくなるまで君は見ていてくれる気がする。君がそう言ったから間違いない。




夜の空気を胸いっぱいに吸い込んで……。足取りはさっきより軽かった。

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