【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
風鈴が鳴る頃に
***

あの夜から時は過ぎて。
改めて思い返すと、あんまり現実味なかったよなーなんて思った。藍色の髪を靡かせた君に、目を奪われ腕を引かれて。


これってただの偶然じゃないような、そんな気がして。


だからーー言い訳させて欲しい。





焼け付くような太陽の下。芝生がサラサラと擦れる音がする。
明るいと違って見える風景に、思わず目を細めながら、お目当ての木の下まで歩幅を速める。


只今、律の家から寄り道中。
場所はそうだなーー、花火が凄く綺麗に見える場所だ。





流石に木登りは断念して、幹の下に腰を下ろす。不思議と安心感をくれる木に背中を預けた。


……淡い期待が拭いきれなかったんだ。


もしかしたらまた、アイツに会えるんじゃないかって少し期待した。


(アホらし……)





しばらくしても、もちろん君は現れなかった。
……少しほっとする。


お前俺に"またな"なんて言わなかったし。俺もこの人とはもう関わりないだろうなって、直感的に感じたんだ。


(なにこれ。これじゃ"またなっ"て言われたかったみたいじゃん……)


指を組んで思いっきり伸びをする。
明日から学校かー。
またいつも通りが始まる。虫が多いあの通学路を通るのは少し苦痛だ。




ーー夏が終わる。

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