【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
「んなこと言わないでよーって……ああっ!!!ねぇ、君女の子だったの??凄くかあいいね〜」


[ブチッ]


何かが切れる音がした。
……それは言うまでもなく俺の血管が切れる音だろう。


(おい、待てじじい。顔見て女と間違えてじゃねェ……)


流石にイラッときた俺は、下げていた目線を一気にじじいのところまであげる。




――例えるなら、言葉を発するまでに要するほんの数秒。俺は夏の空気を吸い込んで、当然のようにこのまま気持ちをぶつけてやるつもりだったんだ。


目の前に突如現れた、藍色の髪に目を奪われて、息をするのも忘れるなんて……そんなの、想像出来るはずがない。




「俺のダチなんだ。離してあげてくんない?おっさん」


心地よい低音が鼓膜を揺らす。近くで見ると、その艶やかな髪は黒というより藍色に近い。スラリと伸びた白い腕が、俺とじいさんの腕をやんわりと掴んだ。忘れる訳がない、忘れられない。


……不思議な青年。



そんな彼が、今は瞳の色が分かるほど近くにいる。
こんな時に考えることじゃないかもしれないけど、彼の美しさはどこか浮世離れしたところがある。掴まれた腕から感じる微かな体温が、彼の存在を裏付けているようで何故だか変に安心してしまった。


「ほら、さっさと行くぜ。花火大会が始まっちまう」


どこか怪しげで魅惑的な声。彼から向けられる視線で、初めて目が合う。髪の色より濃い藍色。飲み込まれてしまいそうな澄んだ瞳。


――君が近い、凄く近い。

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