慟哭の彼方


「あれから俺はまったく嘘がつけなくなった。なんて怖い願い事だったんだって、自分でも思う」

そうだ、あの願い事はとても単純でとても恐ろしかった。

二度と嘘がつけない。

それは「正直者」だけでは済まされないことだ。


だけど彼はこれから生涯、そのハンデを背負っていくことを誓った。

「確かに嫌なこともあったけど、きっといいことの方が多かった。ここに来なかったら俺は勇気なんて出せなかった」

彼が腰を折り、深く頭を下げる。

「ありがとうチェルシー」


ハイゼルの瞳は涙で潤んでいた。

それが悲しい涙でないことが、チェルシーにとって一番うれしかった。


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