慟哭の彼方
それを聞いた彼女が、両の口端を歪める。
「なんだ、文句のひとつも言えるんじゃないか」
髪の色が他の人とは違う銀色で、それがとても印象に残った。
「チェルシーだ」
短く名乗って、彼女はもう一度彼の名前を訊ねる。
「アルス」
今度はすんなりと出てきた答えに、彼女が笑った。
さっきまでの気難しそうな表情からは考えられないほど優しく大人びた笑顔に、一瞬で心を持っていかれる。
親も友達もいなくても、この人さえいればいいと思った。
「アルス、いつか2人でここを出よう」
それが初めて交わした約束だった。