片思いの続きは甘いささやき
「久しぶりだね。今日は濠の緩んだ顔を楽しみに来たんだ。
…あいつの大切な日だから…俺も楽しみだったし」
「野崎さん…。
野崎さんの結婚式の時にも同じような事を真田くん言ってましたよ。
やっぱり長い付き合いですね」
ふふふとからかい気味に笑う雪美の言葉は穏やかで、目の前の健吾を懐かしむように見ている。
席に案内しながら、何年か前の健吾と柚の披露宴を思い出す。
濠の大学時代からの親友である野崎健吾は、やり手の弁護士として名前を知られている。それと同じくらいに妻の柚も世間には知られた存在。
幼い頃、巷を騒がせた大きな交通事故の被害者であり唯一の生存者である柚はマスコミに追いかけられ、傍らで守ってきた健吾。
濠もずっと二人を見守り続けていた。
「こちらの御席です」
「ありがとう」
「いいえ。…もう、真田くんには会われましたか?」
席に着いた健吾は、残念そうに息をついた。
「いや…今日は柚も桜も一緒に来てるから、ぎりぎりまで部屋で一緒にいたんだ」
「え…柚さんと桜ちゃんも来てるんですか?」
思いがけない健吾の言葉に、雪美は驚きを隠せない。
披露宴のお手伝いをして以来、なかなか会えずにいた柚が、命懸けで出産をした事は濠から聞いていた。
産後、体調の回復の為にしばらく入院をしていた事も聞いていた雪美は、照れるように笑っている健吾が嬉しさに溢れているのを目の当たりにして。
「後で、会わせてもらえますか?」
と聞かずにはいられなかった。
「いいよ。披露宴が終わったらここに来るから会ってやって」
「はい。…わぁ…楽しみ…桜ちゃんに初めて会える」
「柚も、雪美さんに会えるの楽しみにしてるよ。披露宴の準備を手伝ってくれて…励ましてくれた事俺も感謝してるんだ」
「そんな…仕事ですし…柚さん可愛いし…私も楽しかったです」
昔を思い出しながら、ほんの少し照れて。
雪美は微笑んだ。
「…濠が言ってたよ。
透子ちゃんの衣装にも気をつかってくれたって」