片思いの続きは甘いささやき
そう。

心臓の手術をした透子には胸に傷痕がある。
本人は大して気にしていないけれど、濠は

『できるなら、傷痕が隠れる衣裳を』

と雪美に漏らしていた。
雪美が透子の最終の衣裳合わせに立ち会った時にも

『濠に出会えたきっかけだし、気にしないのに』

と神経質になっている濠に苦笑していた。
傷痕なんて大した事じゃなくて、愛する人と結婚する喜びしか透子からは感じられなかった。

その頃には濠への想いはほとんど消えていて、長い間縛られていた不自由な心…。

恋人をただひたすら愛する濠に片想いを続ける身動きの取れない心も解放されていたから。

雪美もしっかりと透子の披露宴のサポートができた。

そして今日、ようやく一つの過去が終わって、新しく始まる未来。

雪美の気持ちは想像していた以上に晴れやかだった。

健吾に会釈をして、受付の様子を見に行くと大勢の人で溢れていた。

濠と透子の友人達が受付で頑張っているのを確認しながら、控室の新郎新婦の様子を…と体の向きを変えた途端、黒い塊にぶつかりそうになった。

「あ、申し訳ございません」

慌てて顔を上げると、

「ぼんやりしてんじゃないよ」

無表情な顔の喬が立っていた。雪美を見下ろす目からは何の感情も見えない。

「あ…も…申し訳ございません…」

再度頭を下げながら、雪美の声は震えていた。

喬…。

目の前の彼の体温をすぐにでも感じられる距離なのに、今日はずっとその距離が大きなものに思えて仕方ない。

「ちょっと喬…そんな
きつい言い方しなくても」

喬の周りには何人か友人達がいて、一番彼の近くにいた綺麗な女性が喬をたしなめていた。
喬の腕をつかんでいる様子は親しさが感じられる。

その二人を目にした途端、雪美の心は重くなる。
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