LITTLE
「でも、私にクッキーの作り方を教わったのは、綾瀬君に食べてもらいたかったからでしょ?」
「はい……」
 マミちゃんと綾瀬君の家は、それぞれがキリスト教の家計で、毎週日曜日は教会へ通っている。
 クラスメイトの綾瀬君とは、学校では話したりはしないものの、日曜日だけは二人で教会へお祈りへ行くらしい。
 なんでも、互いの両親がお祈りには参加しない代わりに、二人揃って行かせているとか。
「前に作ったクッキー。綾瀬……美味しいって言ってくれてました。あと、教会のシスターさんや他のクリスチャンの人達も」
 先程まで気だるそうだった彼女だが、綾瀬君の話になると、どこか嬉しそうだ。
 普段からクールを装ってはいるが、素が出ると可愛い。
 優子から聞く学校でのマミちゃんとは大違いだ。
 変に気取らないで、普段から素の自分を曝け出せば良いのに。

 買い物鞄をマミちゃんに返し別れた後、真っ直ぐ家に帰った。
 昼時よりも陽は少しだけ低い位置に傾いてきていて、暑さもかなりマシになっている。
 庭の隅に自転車を停め、家に入ろうとしたところ「にゃぁー」という、鈍い猫の鳴き声が道路側から聞こえた。
 鈍く泣きながら、四本の足を地に着け背中を伸ばす。
「ああ! マルだ!」
 はしゃいで私は駆け寄った。
 マルの前でしゃがんで、頭や背中を軽く撫でる。
 すると、また鈍く鳴く。
「可愛い!」
 マルは本当に可愛いなぁ。
 ウチでも猫か何か飼おうかしら……。
無理かな。
 世話も大変そうだし。
 マルは大きく口を開けてあくびをした。
「マルはいいわね。猫って悩みとかあるの?」
 また眠そうに鈍く鳴く。
「……まったく、私は猫に何を言ってるのかしらね。マルに相談してもしょうがないのに」
 私が撫でるのを止めると、マルはピョンッと家を仕切る塀の上に跳んで、隣の家の塀の上を器用に歩いて行った。
 こんな愚痴を話されても、猫でも逃げ出してしまうわね。
 
 冷房の電源を入れ、リビングを冷やした。
 まず、部屋が涼しくないと夏は過ごせない。
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