LITTLE
 こんな事、冷房なしの教室で勉強している優子に話したら、本気で怒られそうだ。
 なんだか情けないなぁ、私って。
 常々そう思う。
 ソファに寝そべって、ジーンズのポケットに入れていた携帯を床に放り出す。
 着信は一件もない。
 最近、誰かとしたメールといえば、博美や啓太郎と会う予定を確認したっきり。
 あと、今は誰にも言っていないけど、夏休みの少し前に皓から一通。
『心配掛けてごめん。仕事はしっかりやってるし、飯もちゃんと食べてる。だから俺は大丈夫。楓の事は俺も残念だと思ってる。すぐにでも、そっちへ帰りたい。でも今は駄目なんだ。まだ家には戻れない。一人で大変かもしれないけど、優子の事、頼んだからね」
 皓が家を出て行って、約六カ月後に来たメールだった。
 そのメールには、文の下に長いスペースが開けられていて、決まってこう書かれている。
『俺の事は探さないで。あとメールの返信もしないで』
 私は皓の言う通り、居場所を探る為に仕事場に連絡を取って所在を聞いたりはしていない。
 そんな事をすれば、なんとなく皓の事を裏切った様な気がしてしまいそうだから。
 こちらの友人達にもメールの事は話さないようにと、最初のメールで言われた。
 このメールを知れば、啓太郎や博美にアドレスがばれてしまうからだろう。
 皓から来たメールのアドレスは、新しい物に変えられていた。
 きっと私以外の、啓太郎や博美に連絡を取られる事を避ける為だ。
 あの二人ならきっと、少しの手掛かりを掴んだ時点で、それを火種に皓の居場所を全力で探そうとする筈。
 私の為に。
 私は中途半端だ。
 皓に帰って来て欲しいと願う毎日を過ごしているくせして、友人には皓の全てを打ち明けられないでいる。
 こんな生活が、いつまで続くのだろうか?
 長く続く筈もない。
 優子も、麗太君も、やがて大人になって私から離れていく。
 あの二人は既に恋人同士という関係を築いている。
 啓太郎や博美の様な友人達も、やがて家庭を持って私から離れていく。
< 102 / 127 >

この作品をシェア

pagetop