LITTLE
『自分が病院に通っている事は、優子には内緒にしてほしい』
 そう麗太君から頼まれた。
 だから優子には、麗太君の病院通いについては何も言っていない。
 それで一時的なバランスは取れている。

 電話を掛けてきた先生の話は、麗太君の容体についての事だった。
 先生の話では、ここ最近の麗太君は少しではあるが、愛想や雰囲気が明るくなったと言っていた。
 今の生活に慣れてきた事もあるだろうけど、きっと大半は優子のおかげだ。
 優子は、私が言った通り麗太君の支えになってくれた。
 いや、麗太君にとって、それ以上の存在になったのだ。
 嬉しい事ではあるのだけれど、なぜか少しだけ悲しくも思えた。


 暫くして、優子と麗太君が帰ってきた。
 余程、楽しかったのだろう。
 二人は楽しそうに笑っていた。
 麗太君は会ってすらいないのだ。
 自分の母親を目の前でひき殺した男の存在を。
 麗太君のパパは、彼に何も話していない筈だ。
 本人は、事故を起こした相手を、どう思っているのだろう。
 その真意は、私が踏み込んでいいような範囲ではない。
「ママ、目が赤いよ! どうしたの?!」
 優子が私の顔を覗き込む。
 麗太君も、心配そうに私の方を見ている。
「何でもないわ」
 軽く目を擦る。
 先程までソファの上で泣いていたからか。
 格好悪いところ見せちゃったなぁ。
「ママ」
「何?」
「寂しかったら、いつでも言って。私も麗太君も、何か出来る事があったら何でもするから」
 優子と麗太君は、私に笑い掛ける。
「そうね。二人とも、頼りにしてるわ」
 そうだ。
 私には、まだまだ信頼してくれる家族や友人がいる。
 どんなに状況が変わっても、私は一人じゃないんだ。
< 104 / 127 >

この作品をシェア

pagetop