LITTLE
 神父さんは綾瀬の頭を優しく撫でる。
「偉いですね、綾瀬君は」
 綾瀬は少しだけ照れ臭そうに視線を落とす。
「さて、マミさん。今日は何を作って来たんでしょうか? 実は私、朝ご飯はさっきの聖体しか食べていなくて、もうお腹がペコペコで」
 私が作って来るお菓子を楽しみに待っている聖職者……なんだか面白くて笑えてしまう。
「はい、ちゃんと作って来ましたよ」
 鞄から、箱に包んだワッフルを渡した。
「ワッフルです。皆に分けるんで、包丁とお皿を用意して下さい」
「分かりました。少しだけ、待っていて下さいね。すぐに準備をするんで」
 その後、神父さんが切り分けてくれたワッフルを、皆で分けて食べた。
 綾瀬、神父さん、シスターさん、他のクリスチャンの人達。
 皆が美味しそうに食べてくれた。
 笑い合い、他愛もない世間話をしながら。

「マミさんの作ってきてくれるお菓子は、皆を笑顔にしてくれますね。私のミサに皆が集まって来てくれるのは、あなたのおかげでもあるのかもしれませんね」
 教会からの帰り際、神父さんは私にそう言ってくれた。
 皆が美味しそうに食べてくれていたのもあるけど、僅かに自信が持てた様な気がした。
 また作って来よう。
 次は何が良いだろうか。
 また優子のお母さんに、他のお菓子の作り方も教えてもらおう。


 帰りの電車の中、右側のドアの側で。
 綾瀬はジッと外の景色だけを眺めていた。
 何か思い詰めたように。
 こんな風に外の景色を眺めるのは、今日に始まった事ではない。
 こういう彼は、今までで何度も目にしてきた。
 学校での授業中も、今日の朝に私と待ち合わせていた時も……いつも。
 この行動の意味を、私は探求した事はない。
 それを問うてしまうと、今まで積み上げて来た彼との何か、時間や関係、色々なものが崩れてしまいそうな気がしたから。
「なぁ、マミ」
「何?」
「困った事とか……あったら、いつでも相談とかしていいんだから、な」
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