LITTLE
 普段、持たされている鍵を使って、家に上がった。
 誰もいない静かな家。
 それほど古くなく、いや、むしろ新しい方の家の筈が、どこか空気が淀んでいて重苦しかった。
 誰かがいて皆が笑顔で過ごしている、優子の家とは大違いだなぁ。
 優子のお母さんがくれたマフィンを冷蔵庫の中に入れ、リビングでお母さんの帰りを待った。
 きっと夕飯までには帰って来る。
 そしたら一緒にマフィンを食べよう。
 美味しい物を一緒に食べれば、きっとお母さんも少しは機嫌がよくなる筈だ。
 玄関から誰かが入って来る音で、目が覚めた。
 どうやらお母さんの帰りを待つ間、ソファの上に座ったまま寝てしまったみたいだ。
 リビングにお母さんが入って来る。
「あらマミ、帰ってたのね」
「うん。ねえ、お母さん。今日、学校の帰りに優子のお母さんの家に行ってね」
 キッチンの冷蔵庫から袋に包まれたマフィンを見せる。
「優子のお母さんが一緒に持たせてくれたの。だから一緒に」
 一緒に食べよ!
 そう言いたかった。
 しかしお母さんは、それを言う前に、私が両手に持っていたマフィンを手で叩き、床に落とした。
「マミ。あなた最近、学校が終わっても帰ってくるのが遅かったのって、こういう事だったのね」
「あの……お母さん……」
「そんな事してる暇があるのなら、すぐ家に帰って勉強でもしていなさいよ‼」
 お母さんは私の肩を掴み、声を荒げる。
 床に落ちてしまったマフィンを構わず踏みつけ、私に迫る。
「来年は受験なの‼ 私の気持ちも分かってよ‼」
 お母さんは声を荒げて私に迫ったかと思うと、いきなり泣き出した。
「皆……みんな私の気持ちも知らないで……。あなたみたいな出来損ないを、私一人で育てろなんて無理な話なのよ‼ あの人は仕事、仕事って……家の事は全部、私に押し付けて‼」
 その後、私達はいつもの様に夕飯を食べた。
 床に落ちたマフィンは私が片付けて捨てた。


 翌日、私はお母さんが起きる前に家を出た。
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