聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 しかし、それから六百年後。


 うたかたの平和にあったシルヴェリア大陸に、脅威ともいえるべきひとつの国が建国された。―――邪神を崇める、ゾフィア帝国である。


 ゾフィア帝国は四王国に眠るリジュエの血を欲し、四王国の領地へ侵入し、戦を持ちかけては勝利し、各国に「王家の者を捧げろ」と命じた。それにより、血縁関係を結んだ四国はゾフィアの支配下に置かれ、王国は一気に安寧の日々から苦悩の日々へと変換した。


 均衡の崩れ去った四王国に、しかしゼシアの三十五代国王セオドラは周辺の小国を糾合し、二十余年に渡る永き闘いをゾフィアへ挑んだ。その間に隣国フェルムへ対し、何度も援軍の要請をしたが、ゾフィアの支配下に置かれて困窮した大地から人力を割くことはかなわず、セオドラは単身戦禍の中に乗り込んだのである。


 やがてゾフィア帝国はセオドラの尽力によって滅ぼされたが、セオドラはゾフィア帝国に多くの人力を割いた負担と、親交深きフェルムに裏切られた心労により、病に倒れて息を引き取ったとされている。後世に、セオドラの息子、キーファによって言い伝えられることだが、彼は最後にこう言い残している。


「私は、誰にも頼ることができなかった」


 やがて時は経ち―――…。


 現代。ヴェーネ王国にはひとつの暗雲が立ち込めていた。




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