+夜に奏でる恋の歌+
翌日。

私達は一階のフロントにいた。

「もうちょっといたかったなあ〜」
「そうだね〜!」

「んじゃ帰ろっか〜!!一晩、お世話になりました!!」

私はおじさんに笑顔でそう言うと旅館を出ようとした。

―どさっ。

「?」

何かが足元に落ちた音がして
鞄を見たが、何かを落とした形跡はなかった。


(まあ、いいか)

「椎奈ぁ!早くしてっ」

「はいはーい」

凛夏の怒鳴る声がして慌てて旅館を出た。

そして駅のある方向へ私達は歩き出した。











「あいつ、バカなの?」

その頃旅館では、不機嫌な顔をした少年がおじさんに向かってそう言った。

「鈍い子なんじゃない?」

おじさんはクスクスと笑った。

「…………」

その少年は手にあったものをじっと見つめた。

そして妖艶なほほえみをおじさんに向けた。

「…浜風椎奈か。楽しくなりそうだ」

―日常ガ非日常へトカワル。

私はまだそのことを知らなかった。
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