吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
脳内の黒い化け物に唆されていると明確に認識したのは真ん中で夢中になって落書きしている若者を置き去りにして、左右にいた二人が逃げたときだ。
右にいた若者が肩を叩いて知らせたが、ヘッドホンをしている真ん中の若者は悪戯してじゃれてきただけと思ったのか「邪魔すんな!」と過剰な大声で迷惑そうにあしらい、二人が足を絡ませる勢いで転び、焦りながら走る姿に気づいたときはすでに乱杭歯をむき出しているイオタが目の前に迫っていた。
数秒間でも脳内の黒い化け物に体を乗っ取られた気がして疎ましかった。
「きゅ、吸……吸血鬼ぃ~」
若者は地面にストンと腰を落とす。