吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
「ち、ち、ち、血を……吸わないでくれ!」
若者が言葉を渋り出したタイミングで、脳内の黒い化け物はもう一度赤い本を捲ってパラパラ漫画を見せた。
表面張力ギリギリ入っていた赤い液体がワイングラスから零れ、周りの景色を鮮やかな赤で染めていくおまけが追加されていた。
「怒りや憎しみといった負の感情を捨てれば、消すことは可能になるかな」
「け、消す!?」
もはや命にかかわる言葉しか若者の耳には入らない。
「知識を捨てて廃人になるしかないかな」
イオタは脅しをかけるが、脳内の黒い化け物は両手を頭上で組み、楕円をつくって0という数字を表現する。