蝉時雨



涼ちゃんは嘘つきだ。

菜々子のことなんかどうでもいいくせに。
待ってなんかいなかったくせに。






「‥‥何、観てたの?」

「ん?あぁ、これ?
借りてきたDVDだよ」






ほんとは菜々子の浴衣姿になんて
興味なかったくせに。







「‥‥そっか。おもしろそうだね」

「菜々子も一緒に観る?」





菜々子なんて邪魔でしかないくせに。
そうやって何食わぬ顔して、
平気で嘘をついて優しくするんだ。








だってそうでしょ?

菜々子がいるのに気付いた後も
涼ちゃんの腕は変わらず圭織を
愛おしそうに包んだまま。

まるで“お前の入る隙なんてない”
って言ってるみたいに。






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