蝉時雨
私のいる位置の斜め前に見える
リビングのソファー。
そこには涼ちゃんの後ろ頭があって、
私の声に気付いて軽くこっちに振り返った。
でもソファーの背もたれに沿って伸びた片腕は
そのまま位置を変えることなく、
涼ちゃんにもたれかかるように寄り添う圭織を包んでいる。
どくんと跳ねた心臓に
ちくちくとした痛みが走る。
「お、菜々子!おはよう!」
「菜々子ちゃん、おはよう」
「‥‥おはよ!」
いつもみたいににかっと笑う涼ちゃんに
私も微笑み返す。
「昨日待ってたんだぞー」
「あ‥‥ごめんね。
ちょっと疲れちゃって」
わざと大袈裟にむくれてみせる涼ちゃんに、
また笑顔を作る。
なのにどうしても、どう頑張っても
顔がひきつってしまう。
「嘘嘘!気にしないでいいよ。
でも菜々子の浴衣姿
見れなかったのは残念だなー」
「あはは‥‥」
じんわりと、もやもやした黒い感情が
体中に溢れていく。