蝉時雨



でもそのことに気付かないふりをして
京介の方は見ずにマンガを読み進めた。








「さっきちょっと観たんだけど、
私が好きなジャンルじゃなかったんだよね」

「‥‥‥‥なあ」

「それにさ、
途中から観るのって微妙じゃない?」

「‥‥‥菜々」

「私の都合に付き合わせて、
巻き戻してもらうのも悪いし」

「菜々」



京介が私の名前を呼ぶ度に、
ページをめくるスピードが速くなる。

だって無理にでも
気にしてないふりして笑ってなきゃ
もやもやした醜い感情に押し潰されそう。








「それに涼ちゃん
貸してくれるって言ってたし」

「おい、菜々子」

「‥‥‥っ‥いいってば!!
ここにいるの!!!!」




怒ったように菜々子の名前を呼んだ京介に
思わず大きな声をあげる。
マンガを持つ手にも力がこもる。




< 146 / 225 >

この作品をシェア

pagetop