蝉時雨
無意識なんだろうけど、
彼女の話をするとき
彼女の側にいるとき
涼ちゃんは幸せそうに笑う。
喧嘩してるはずなのに
今だって圭織の話をして
菜々子には向けたことのない笑顔で
嬉しそうに笑ってる。
“菜々子は関係ないよ”
頭のなかにこだました
涼ちゃんの言葉がどろりと溶けて、
胸の中に広がっていた黒い感情が
どんよりと深く暗く渦を巻いていく。
そして心臓がそれを全身に広げるように
じんわりと鼓動をあげていく。
「‥‥じゃあ、どうして
喧嘩になっちゃったの?」
「うーん、まあ、喧嘩というか」
持ってきた菜々子の分のグラスと
ケーキの乗った皿を私の目の前に置きながら
少し考え込むように視線を落とした。
そしてまた台所に戻りながら続けた。