蝉時雨



「そうだよ。
この子がご近所さんで幼なじみの菜々子」

涼ちゃんがぽんぽんと
私の頭を撫でながら言う。
涼ちゃんの行動に
思わず表情が緩みそうになるのを
必死に堪えながら、圭織を睨みつけた。


なんで菜々子を見てはしゃいでるんだろう。
友好的な態度をとって手なずけるつもり?

まだよく掴めない圭織の行動に
私は改めて身構えた。





「やっぱり!そうだと思った」

「‥‥‥なんで菜々子のことわかったの?」


敵意むき出しの私を前にしても
相変わらずにこにこと
嬉しそうにしている圭織に、不機嫌に訊ねる。







「急に騒いでごめんなさい。
涼太がね、地元の話をする時に
かわいい妹がいるって毎回毎回
菜々子ちゃんの話するのよ。
だからなんとなくそうかなって」

そう言って圭織はまた嬉しそうに目を細めた。






「それ本当!?
本当涼ちゃんが菜々子のこと
話してくれてるの!?」

あんなに身構えていたのに、
あまりの嬉しさに抑えきれず
表情がぱあっと明るくなる。






だって涼ちゃんが私の知らないところで
私の話をしてくれてる。


離れてても、
菜々子のこと考えてくれてる
ってことでしょう?


こんなに幸せなことってないよ。








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