たった一人の親友へ〜another story〜
その日久々にさなが事務所に来た


数時間前では考えられない光景だったのに


そんな日々を想像できないほど当たり前のようにさなはそこにいた




三ヶ月前と違うことは


俺の部屋に広がるゆいの私物たち


さなはあえて何も言わず


いつもの定位置へと腰を下ろした




「ねぇ、翔。ゆいちゃんのこと好き?」


突然投げかけられた質問


取り乱す暇もないように俺を捕らえるさなの視線



「突然何だよ〜。
好きだけどさぁ。
さなは?隆也先輩と上手くいってるの?」


「・・・。
うん。上手くいってるよ」


あまりに笑顔で言われたもんだから


少し胸に淡い痛みが広がった


「そっかぁ!今度は大事にしろよ。
お前のことそんなに想ってくれる人なんて中々いないぞ」


ただの強がり


だって俺たちはそういう道を選んだんだから


別々に歩んでいく道を選んだんだから


こう冗談を言い合って


いつかこういうことに慣れた時


初めて俺たちはなんの偽りも無く“親友”になれるんだよな




いつかそういう日がくるって


このときは本気で信じてた


何の偽りも無く


そう信じていたんだ

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