One STEP




あたしは1人、はぁはぁと息が荒かった。


先輩は「大丈夫?」と、あたしの顔を覗き込んできては不安そうな顔をする。



あなたのせいです、なんてとてもじゃないが言えそうにない。



間近にある先輩の綺麗な顔。


肌なんてありえないほどきめ細かかった。
ニキビなんて無縁だな。


ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えたあたしは、少し小さな声で質問した。



「あの…用件はなんでしょうか…?」



そうそう、と用件を思い出したのか、パチンと手を合わせて笑った先輩は、綺麗の他に可愛いとも思えるんだってことを知った。




「どうしても演劇部に入ってくれないの?」



その質問…


避けたかったけどやっぱり無理だった。


こんな綺麗で可愛い先輩があたしの用なんて、考えられるのはこれを言うためとしか考えられない。



そっかそっかそれだよね…。


ある意味良かったけど良くないよ…。



あたしの視線はチラチラと天井を泳いだまま、えぇーっと…と言葉を濁す。



なんだか断りにくい。
藤田先輩みたいな先輩だったら、無理です!ってハッキリに言えるけど、この先輩みたいな綺麗で素直な先輩に言われると…。


チラッと先輩の表情を伺う。




< 38 / 528 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop