One STEP



もちろんこの先輩を見に来ているということは分かっている。


もちろんあたしを見てるだなんて思ってもいない。



さすがに、少し血の気の多いあたしでも「見てんじゃねぇ!!」なんて、そんな大変なこと言えなかった。



しかし、この先輩はまったく気づいていないらしい。


天然なのか、鈍感なのか。




「あなたのあの響く声。すごく惚れました」




先輩は周りの視線などお構いなしに話を続ける。


聞いているこっちが恥ずかしくなる言葉を平然と口にする先輩。



惚れたって…なに?
声に?あたしの?



声に惚れるもなにもあるのだろうか、と単純に思った。



あたしの声…そんなに変…?




「あなたの声に惚れたんです」




あたしが何も言わないせいか、先輩はこの言葉を何度も繰り返す。


先輩に恥ずかしいという感情はないのだろうか。



あたし…かなり恥ずかしいんだけどッ!?



「わっ…分かりました分かりましたっ!!十分分かりましたからっ!!」



あたしは必死になって、先輩の口を塞いだ。



分かったからそう何度も聞いているこっちも恥ずかしくなる言葉を連呼しないでください!!!





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